むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある日の事、吉四六さんは、お茶と柿と栗(くり)の実をかごに入れると肩に背负って、
「さあ、これを売りに行くか」
と、町へ出かけて行きました。
「さて、茶と柿と栗の実を、どう言って売り歩けばいいかなあ?」
すこし考えた吉四六さんは、大きな声で、
「ちゃくりかき、ちゃくりかき!」
と、怒鸣って歩いて行きました。
ところがいくら歩いても、ちっとも売れません。
とうとうタ方になってしまい、吉四六さんは一つも売れないかごを背负ってトボトボと家へ帰って来ました。
するとそれを见た、近所の人が寻ねました。
「おや? 景気の悪い颜をしているね。かごの物は売れなかったのかい?」
「ああ、ちっとも売れなかった」
「そうかい。そいつは気の毒にな。して吉四六さん、いったいどう言って売り歩いたんだね?」
「ああ、『ちゃくりかき、ちゃくりかき』と、大声で怒鸣ったんだ」
「『ちゃくりかき?』アハハハハハッ。そんな訳の分からない売り声では、谁も买わないのが当たり前だ」
「じゃあ、どういう売り声ならよいのだ?」
「『ちゃくりかき』と、一口に言ってしまっては駄目だ。茶は茶、栗は栗、柿は柿と、别々に言わないと、闻いた方は何を売っているのか分からないよ」
「そうか、なるほど。じゃあ明日はそう言って売る事にしよう」
吉四六さんは、大きく颔きました。
さて次の日、吉四六さんはまたかごをかついで元気よく出かけました。、
「よし、今日は、うまくやるぞ」
そして、町へやって来ると、
「昨日の様に、ちゃくりかきは駄目なんだな。みんな别々に言うんだな」
と、大きな声で、
「えー、茶は茶で别々。栗は栗で别々。柿は柿で别々」
と、怒鸣り続けましたが、やはり谁も买ってくれる人はいません。
がっかりした吉四六さんは、
「やれやれ、今日も、ちっとも売れないや」
と、重いかごを背负って、家へ帰って来ました。
近所の人がそれを见て、
「あれ、また売れなかったんだね。今日は一体、どんな売り方をして歩いたんだい?」
「うん、昨日教わった通りに、别々に言ったよ。『茶は茶で别々。栗は栗で别々。柿は柿で别々』と、そう言って歩いたんだ」
「何てまあ、あきれた呼び方だ。それじゃあ、三つも売れないのが当たり前だ」
そう言って、大笑いしたそうです。