お柳さまの头には、そのときどんな考えがやどっていたのだろう。われわれがふりかえると、彼女はつと眼をそらして、池のほうへむき直った。池のふちでは仙石鉄之进が、源造にたすけられて、よたよた|这《は》いあがって来るところであった。しかし、お柳さまの眼は、そういう浅间しい爱人のすがたを见ているのではない。彼女はあきらかに眼のすみから、まじまじとわれわれの様子をうかがっているのである。その美しい横颜に、ふいと|谜《なぞ》のような微笑がひろがっていく。なんとなくそれは、みだらな、好色らしい印象をひとにあたえる微笑であった。
「おい、いこう」
突然、あらっぽく直记は私の腕をつかまえると、
「あの|牝狐《めぎつね》めが……」
と、吐き出すように|呟《つぶや》いた。
お柳さまのすがたを|尻《しり》|眼《め》に见ながら、日本座敷の角をまがると、ふいにピアノの音がたかくなった。
考えてみるとこのピアノは、庭へとふみこんで来たときから闻こえているのである。ことに木の根につまずいて仰向けざまにひっくりかえった蜂屋のうえから、さっと日本刀がふりおろされた瞬间、爆発するように高くなって、座敷中をひっかきまわしたのをおぼえている。そのピアノの音はいま静かな呟きとためいきに変わっている。
わたしたちがポーチから入っていくと、女がひとり、こちらに横颜を见せて、ピアノをひいていたが、その横颜があまりにもお柳さまによく似ているので惊いた。むろんお柳さまは古风である。まるで|歌《か》|舞《ぶ》|伎《き》芝居に出て来る|御《ご》|後《こう》|室《しつ》といった|恰《かっ》|好《こう》をしている。それに反して八千代さんはあくまで|尖《せん》|端《たん》的だ。髪をアップにして、|真《ま》っ|红《か》な花をさしている。|眉《まゆ》をながくひいて、横向きになっていると、|睫《まつ》|毛《げ》がびっくりするほど长い。唇をまっかに涂って、アフタヌーンも燃えるように赤い。よほど赤という色が好きと见えて、スリッパまで真っ赤である。
しかし、それでいて彼女とお柳さまの相似はおおうべくもない。思うに八千代さんの生地はお柳さまと同じく、古风な纯日本式の颜立ちなのだろう。それを巧みな化粧によって、近代的な感覚にもりあげているのだろう。『花』の事件が起こった际、ある证人は彼女を古风な美人だといい、ある证人はまた彼女を毒々しいまでに近代的な美人だったと、正反対の证言をしたのも无理はない。见るひとによってどちらともとれるのが八千代さんの颜であり、そこに彼女の化粧の魔术があるのだろう。
さて、われわれが部屋へ入っていくと、そこにもうひとり男のいるのに気がついた。その男はこちらに背を向け、ピアノによりかかるようにして八千代さんの颜をのぞきこんでいる。おりおりその男がなにか|嗫《ささや》いているらしく、八千代さんはうっとりした眼で微笑する。その笑颜までがお柳さまにそっくりだった。
私はうしろ姿からして、てっきりその男を蜂屋小市だとばかり思っていた。その男も小市と同じような姿だし、それに服装などもほとんど小市とかわらなかった。私は小市に対して、|嫉《ねた》ましさといまいましさがこみあげて来るのをどうすることも出来なかった。
直记は眉をひそめ、一种异様な|眼《まな》|差《ざ》しで男女ふたりのこの活人画を见守っていた。私はいまでもそのときの直记の眼差しをありありと思い浮かべることが出来るのだが、するとゾクリと冷たい|戦《せん》|栗《りつ》が、背筋をつらぬいて走るのを禁ずることが出来ないのだ。あのとき、かれはいったい何を考えていたのだろう。あの热っぽい、ギラギラ光る眼光は、いったい何を意味していたのだろう。それはふいと心をかすめてとおった疑惑のあらわれだったろうか。
それとも|軽《けい》|蔑《べつ》と|嘲笑《ちょうしょう》だったろうか。いやいや、ひょっとするとかれもまた、私と同じような|嫉《しっ》|妬《と》に胸をかまれていたのではあるまいか。
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追答有人已经给你复制粘贴中文翻译的小说了
还需要我的吗?
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