宙の一点に、一本のすじを引いて今に立ち上る烟は、ただ帝の心だけでな
く、また、この世の人间の宇宙における位置を示しているのではあんるまいか。
もの思うあわれをこの世のものとした『竹取物语』は、また富士の烟において、
その物思いを、「あきらめ」という安定に持ち込んでいる人の世の在り方を示
しているのではあるまいか。
憧憬の世界は至りえない彼方にある。憧憬するものをわが物となしえない时
に、自らの存在が根底から崩壊する可能性がある。だが、「あきらめ」は憧憬
を残したまま自らを安定にもたらしてゆくものである。至りえない憧憬の世界
を彼方に描く者にとって、「あきらめ」は生の支えである。「あきらめ」という
自己救済は、日本人の心の有りかたとして大きな问题である。